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有り余る時間  暇人の日記

恋愛指南 byオウディウス

私はギャグマンガが好きです。クスクス笑いながら読むもよし、ゲラゲラ笑いながら読むもよしですが、一番楽しいのは普通に読み進めているときに、突如としてプッと吹き出してしまうようなおかしさに出会った瞬間です。

 

先日読み終わった本はそんな一冊です。でも、今回の本はギャグ漫画ではありません。古代ローマの古典です。

 

作者のオウディウスはwikipediaによると紀元前43年3月20日生まれとのこと。つまり、今からざっと2000年くらい前の作品です。めっちゃ古いですが、今読んでも笑えます。

 

彼の作品としては、たぶん「変身物語(メタモルポ―セス)」の方が有名ではないでしょうか。西洋絵画で神話を描く際によく元ネタとして使われているアレですね。ティチアーノの晩年の作品は、メタモルネタが多いですよね。

 

古典といえば、かたくて教訓めいているものを想像されるかもしれませんが、本作に関しては、翻訳者の沓掛先生の口語訳が光り、私のようなただの主婦でもサクサクと読み進められます。

 

今回私が読んだ恋愛指南という作品は、先ほど述べた変身物語よりも以前に書かれたとされる作品で、彼の一連の恋愛ネタ作品の集大成なんだとか。(私は他の作品を読んだことがないんですが・・・)

 

この作品の面白さは、ローマを恋愛の戦場にたとえ、「恋のわけ知り」であるオウディウス大先生が我々読者に、恋の駆け引きを厳かに伝授するという設定そのもの。つまり、しょうもないコトについて、勿体ぶった言葉でうんちくを垂れているのを笑う作品なのです。

 

内容は三部作仕立てで、第一部は女の子の口説き方。第二部はひっかけた女の子のつなぎ方。そして第三部は男性受けする女子力アップの方法。

 

平成の世でいうananの守備範囲を、恋のわけ知りのオウディウス大先生は2000年前に開拓していたわけです。

 

しかし時代は古代。ナンパな書き方では本も出版してもらえません。文学とはエリートだけに許された楽しみなので、エリートが使いそうな大上段な構えの言葉が必要です。

 

だから、一言でいえば「女のひっかけ方」で説明がつく第一部の第一文は、こんな風に始まるのです。

 

誰にもせよこの民のうちで愛する術を知らぬものあらば、これを読むがよい。

 

なんだか、一気に風格が漂いましたね。

 

このように本の中では始終、一子相伝の北斗神拳でもこうは勿体ぶるまいという態度で、「いい女の子に会いたければ、劇場へ足へ運びたまえ」とか、「女の子にはできるだけ媚びて近づいて、いいポジションを狙いたまえ」みたいな恋愛指南が繰り返されます。(アドバイス自体はわりと情けない内容)

 

さらに、

 

もしも外套が長すぎて地面に垂れかかっていたら、その端をつまんで、汚い地面からいそいそとかき揚げてやりたまえ。するとただちに、君の奉仕の代償として女性も仕方なく許すがままに、彼女の脚が君の目にはいる仕儀となる。

 

なんていう痴漢指南まで飛び出す始末。でも、こんな馬鹿げたアドバイスを大上段に振りかぶったところから繰り出すのがこの本の真骨頂なのです。

 

さて、本作はこのような厳格かつ気品あふれる調子で、付き合った後どうやって彼女をつなぎとめるか、男性にもてるには女子としてどんな心構えが必要か、と様々な角度から恋愛の技を吟味していくのですが、最後の最後にオチがつきます。

 

その名も「なーんちゃって♪オチ」

 

これまで威張り腐って講釈を垂れてきた恋愛講師が、最後に自ら

 

「なーんちゃって♪(・ω<)てへぺろ」

 

と全てを冗談とにして強引に締めくくるのです。この力業には、まさにローマ文学黄金期の一翼を担った巨匠の腕が光ります。

 

が、しかし、彼の「なーんちゃって」は、読者には通じても、時の皇帝には通じませんでした。彼は、こんなしょうもないギャグ恋愛ハウツー本を書いてローマの風紀を乱したカドで島流しになってしまったのです。

 

ギャグみたいですが、史実です。

 

その後、彼は流刑地から何度も恩赦を請い、「あんな破廉恥なもの書いちゃったけど、あれはギャグですから!私は真面目でちゃんとした人間ですから!」と言ってみたものの、最後までローマに戻ることはできなかったそうな。

 

もしかしたらこの史実こそが本作最大のオチかもしれませんね。いわば、作者は人生をかけた大ボケをかましたわけです。(皇帝にはスベったけれども)

 

 

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恋愛指南―アルス・アマトリア (岩波文庫)

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沓掛先生(先生とか言ってますが、面識は全くありません)のあとがきも結構面白いですよ!